プロローグ
人生で初めてこんな経験をする。
生まれる前からこんなことは起きたことはないだろうし、自分の死後も二度と起きることはないだろうと思う。...起きないでくれ。
静かな朝だった。
今日だって同じ時間に目が覚め、いつも通り朝ご飯を食べ、仕事がないから二度寝。
あぁまた怒られるなぁ。いつまでこんな生活をしているんだろうか。
ーーー寝坊だ。
今日はあれだな、友達と旅行の予定だったはず。
憂鬱だ憂鬱だって言って来なかった奴が珍しく出てきてくれるってのに。
...あれ?時計、止まってる。
スマホ充電するの忘れてた。
これじゃあ時間わからないし連絡もできない。
とにかく荷物まとめて早いとこ出ないと。
母がいない。
夏休みとはいえ、平日の昼間だ。
父は仕事だし、妹は部活へ行っている。確か大会だったか。
だが母までいないとは珍しい。
フライパンの上で料理は焦げてるし、台所に服や下着が転がってる。
何を血迷ったら料理を放ったらかして、全裸で消えるんだろう。
二人ぶんのお昼ごはんかな...旅行のこと、伝え忘れてた。?
友達と旅行に行ってきます。伝えるのが遅くなってごめんなさい。
一週間の予定です。
静かだ。
すごい静か。
商店街まで静かだ。
風が通り抜ける音と旅行鞄を引く音のせいでやけに緊張する。
ーー集合場所。盾川駅。ここに来るまで一切景色が変わらなかったのが不思議でならない。
いやなに、ループする廊下とかいうファンタジーじみたものじゃない。
現実でそんなものがあってたまるか。
まじまぼろし~だって。
違う違うそうじゃない、商店街からここまで...いや、家から、それも二度寝から覚めた時から一切変わってない。
人がいない。
そこから小一時間駅前で待った。
誰か、何かに遭遇した時のリアクションを考えながら。?
正直言って異常だ。
休みの日の学校なんてレベルじゃない。? 二度寝している間に何があったっていうんだろう。
否。もしかしたら一度寝の時からかもしれない。一度寝ってなんだ...? 圧倒的凡人が原因ばっか考えてたってどうしようもない。
今はーーー生き残らないと。
特別サバイバルスキルとかは持ってはいないものの、電気、ガス、水道は普段通り通っているようで、食べ物さえあれば生きてはいける。
ビバ人工知能!
人のいないスーパーで品物だけもらっていくというのも、罪悪感が残る。
いや、お金を払う必要もないのだけど。
何軒か他の家にお邪魔して帰宅したけど、うちと何も変わらない空虚な光景だった。
人影ひとつなく、服だけ残って...一箇所だけ服の下に黒い影が残っていた。
かつて原爆記念館へ行った時、人影の石というものを見たことがある。
まさにそんな感じ。
恐ろしい。
気持ち悪い。
だから寝た。
三度寝。
これが夢だとーーー願いながら