第一話
「ここは・・・自分の部屋だ。そっか、三度寝したんだ・・・」
「時計はまだ止まってる。スマホは・・・使えるね」
「ついてるだけ、こっちも時間は止まってる」
時計はなおも十時を指したままだ。
「結局今は何時なんだろう。三回も寝たから午後ではあると思うんだけど」
「一階・・・行くか」
「えっ!?どうして」
『なによ。お化けが出たみたいな顔をして』
「だって、お母さん・・・なんでいるの!」
『なんでってここが私の...』
『まあいいわ。晩御飯、出来てるわよ』
「あ・・・え・・・今までどこにいって」
『お!おはよーイツキ!ねぇ聞いてよ!今日の大会で優勝したんだ~。すごいでしょ!』
「**・・・?**?」
妹だ。
紛れもなく。
なのに。
「なによ~人の顔ジロジロ見ちゃって、惚れた?ねぇねぇ惚れた?」
「あれ・・・名前が出てこない」
『最愛の妹の名前忘れちゃったの?これだからイツキってば・・・普段っから勉強も仕事もせず堕落した生活送ってるからだよ。マジ認知症、ウケる』
「悪かったって」
『ホントよ!イツキも昔みたいにもっと運動しなさいよ』 「余計なお世話だっての。それくらい自分でも・・・」
『あ、今日のご飯なにー?』
『え~内緒。お父さん帰ってくるまで待ってて』
『なんでよー。教えてよー』
「ほら、お母さんが頑固なの知ってるでしょ。隕石が降ってきてもお母さんだけは砕けないってお父さんも言ってる」
ーやばい。これ言ったらいけないやつだ
『イツキ、ご飯終わったらいらっしゃい』
「ごめんなさい」
『あ!お父さんお帰りー!』
『あぁ。ただいま』
子犬かこいつは。
いつも通り。
今はこの騒がしさがとても心地いい。
「お父さんお帰り。仕事?」
『ん?あぁいつも通りだろ?』
・・・何も心当たりはないのだろうか
「そう、だね。ごめん変なこと聞いた」
『どうしたのイツキ、今日なんか変よ』
『寝すぎて疲れた?』
『さっすが認知症だね』
「っ・・・」
『こら、そういう悪口言わない』
『そうだイツキ、ご飯の前に話がある』
「改まったね、何か言いづらいこと?」
「ご飯の後じゃダメかな」
『こらイツキ、母さんとの約束を破る気?』
「うわぁ、本気かよ・・・」
「ってそうじゃなくって」
『そうだな、食べる前に話しておこう』
『あぁ・・・お前とはここでお別れをしなきゃいけない』
ーは?
『イツキ、お前とは生きている世界が違うんだよ』
ー意味がわからない。
『沙知、ずっと期待してたんだ』
『また昔みたいに人気者で明るいイツキに戻ってくれるんじゃないかって』
ー何を言って・・・
『もう遅すぎたのよ』
ー待って
『『『怠け者』』』
ーー熱い、熱い、熱い、熱い、アツイアツイアツイ。
ーー助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、お願い誰か・・・****。
「うゥ」
夢・・・か。
覚醒した。
玄関だ。
ただの思い込み・・・被虐妄想が過ぎる。
こんな時でも、お腹は減るし、トイレには行きたい。
汗だ。
シャワーを浴びよう。
喉も渇いた。