第五話
「クザキ君モテモテじゃん、アオハルじゃん」
「いやいや、皆さんに俺の家だからってリーダー任されちゃって」
「俺なんか全然そんな柄じゃないのに」
「お医者様とか先生、お偉いさんもいるわけだしね」
「医者じゃなくて医者もどきだって言ってんでしょうが。あんなのが医者なんて絶対認めないわよ」
「そういう嘘を若い子に吹き込むのはやめてくれないか、倭文。うちの病院の名を汚すつもりか」
出てきたのは黒い眼鏡をかけた、気丈夫そうな青年。いかにも医者、みたいな見た目だ。
「君がカグラ君が言っていた優秀な子だね、噂通りだ」
「はい?あたくし?」
「こんなやつが優秀?ただのひねくれ者だわ」
「やかまし」
「君のことだよイツキ君。」
「君、白浪学園の出身だろう?そこのカグラ君の先輩になるんだよ」
「っていうかお会いしたことありますよ」
ん?なるほど、見たことあると思ったけど…お前か
「…ねぇクザキ君、君さ。」
「うちの妹の彼氏だよね」
「元彼氏、ですね。忘れてたんですか?結構仲良くさせてもらったんですけどね」
妹、沙知の元彼氏。中学の頃、何度かうちに遊びに来たことがあったか
「うるさい色男、お前の好感度が低から最低にランクダウンしたからな」
高校時代、とあるいざこざに巻き込まれたことがある。内容は省くが、当時中等部の二年だった久崎カグラが発端だったことを知らされたときは本当に驚いた。驚いたし、憤慨した。とても。
「ちょっと」
「クザキ、こっちに早く来てくれ。悪いねイツキ、ちょっと借りてくよ」
「先生…?あ、あとで挨拶に伺います…」
「でね、イツキ君。君はこれからやること決まってるのかい?」
「明確にはまだ。何?手伝えって?」
「一つだけね、大したことじゃないさ。見てくれるだけでいい」
「倭文、シノ君とエルナ女史に案内してやってくれ」
「望月、です。今年、で二十一」
「・・・なにかついてる?」
じろじろと見られてる
「あ、気にしな、いで。大丈、夫」
「ん?うん。で、ここは一体なに」
道路上に夥しい量の血液が残ってるけど
「クザ、キ君の家、から白、浪学園に、行く道。わた、したちが会っ、た所、から、少し行っ、た場所。ク、ザキ君が一回食べ、られたとこ」
テンポの悪い喋り方をする子だ。特別嫌な気はしない
「どう思う?」
「ドシンプルな聞き方をしますね。どう思うって?」
「死んだっていう現象に対してよ、あるいは生き返るっていう現象に対して」
すごい非日常感のある言葉を連呼されて複雑な気分だ
「死んだことは間違いないよね、ゴム手袋ある?」
望月さんが『こ、これ』と渡してくれたのはあの医者のやつか
「喰われたって言ってたし肉片の一つくらいないもんかと思ったけど、特別ないね。血も乾いてる。いつだっけ言ってたっけ」
「三、日前」
「そっか、三日前ね」
ー
「二人、どっちでもいいけど一緒についてきてくれる?もう一人はあの医者連れて愛花大に来て」
「愛花大学ね。シノさん、イツキさんについていってくれる?」
「わ、かった。」
「なに、するの?」
「ここうちの学校。クザキ君とかに優秀だって言われてたのは合格できたからだと思う。すごい過大評価だよね」
「そんな、ことない、と思う。学校、行って、るのすごい」
本心から褒めてくれてるのだろうか
「望月さんは今は何を?学校言ってないみたいなくちぶりだけど」
「万智、屋書店、って知っ、てる?そ、こ実家」
「万智屋書店?あ、中等部の頃よく通ってた」
「そっ、か、ありがと、う。ここ、でな、にするの?」
「話しやすくて助かる。うちの研究室に用があってね」
「研、究室?」
「うん。研究機器の持ち出し。まあ簡単な物だけだけど」
「なに、か、調、べるの?」
たどたどしいながらも結構ズバズバと聞いてくる
「あ、いやいや。これからのためにね」