第三話
何もできない
何もしたくない
このまま、できるのなら、死にたい
「気持ちはわからなくはないけど、いい加減不貞寝、やめてくれないかしら?」
夢に溺れかけていた意識が寸前のところで現実に引き戻された。
ーなにごと
「確かにね、一回殺されたんだし落ち込む…落ち込んでるの、あなた?」
「まぁそれはいいのよ。でも私の気持ちもそろそろ汲んでほしいってね」
わずかに夢が混濁した意識には心地よすぎる、琴のような妖艶な……
「起きなさい!っていうか一瞬起きたでしょうあなた!」
「ぬごぁっ!」
刺さった。拳が。横腹に。
「遠慮のない人で…誰!?人の家に断りなく入り込んで!」
「助けに来たってのに…随分と横暴なのね」
「は、はぁ…?」
横暴…頭がはっきりしてないせいか意味がよく分からない言葉が飛んできた。
辞書どこだっけ、調べるかな
「あのよぉ姉さん、姉さん今住居侵入に暴行とかどんどん犯罪重ねてんだが大丈夫か?」
異様に妖艶な美女に殴られたと思えば、今度は男だ。背は高め…高いか?中肉中背の普通の男。また殴られるのか。 痛そうだ。
「おっと、構えないでよ。そこの姉さんと違っていきなり襲ったりしないよ」
「連れが悪い。第一印象って大事だと思うんだ」
印象のいい笑顔で冗談にも取れない言葉を口にする男に軽口を叩く気にはなれない。殴られたし。
「いまさら何か犯罪を犯したところで、裁く者なんかいないじゃない」
「それに、いたところで私がしたことが正しいんだから関係ないわ」
ーなにこの横・暴子。
「あぁもう…俺の名前は久崎、久崎カグラ。で、こっちの暴力女は梨野木倭文。俺は姉さんって呼ばされてる」
倭文?帰化人かなにかか
「勝手に私の名前を言うんじゃないわ。私の名前は私が語る。」
「俺が言わなきゃ、延々と喧嘩してんだろが。で、イツキさん、下に来てくれる?色々話がしたい、ご飯食べながら少し…」
「出てって」
「ん?」
「救世主面した連中に着いていくつもりなんてないから」
「っていうか出会い頭に横腹殴ってきた暴力女とゆかいな仲間たちについていくとでも思う?お花畑なの?」
「初対面でここまで煽るあんたもなかなかなものだよ…」
ー誰のせいだ
「この状況で独りでいること以上に危険なことはない。それ分かって言ってる?」
ー今更そんなこと、言われなくても理解してる。信じられないけど死んだわけだし
「」「」「」「」
くどくどとしつこい…
「まわりくどいのはやめましょう、カグラ」
「わかってくれた?じゃあ帰って」
「私たちが持っている情報を教える。それを踏まえてこれからのことを考えなさい。でも限りあるご飯を無駄にするのはいけない、降りるわよ」
「分かってること、なんて言っても解決に直結するようなことは何もないのよね」
ーふざけてるのかこの女
「どうかな、口に合わないかい?」
「早く話して」
「あら、聞いてくれる気になった?」
「食べ物を粗末に扱うな、なんて言われたら食べないわけにはいかないでしょ」
「話の腰を折らないでくれるかな」
「カグラ、頼むわ」
「はぁ、任された」
「あんたも大変だね」
「慣れだよ。俺たちの経歴かな、そこからだ。と、もったいぶってみたけどただの学生と会社員だ。俺は高3、姉さんは27だって言ってたかな。」
「ヒトが消えた日は何をしてたかだって?寝ていたよ。起きたらこうなっていた。だから詳しくはわからない。」
「嫌な予感がした。家族もいなかったからね。とりあえず学校で待っていたら、2人来た。ん?姉さん?違う違う。同じ学校の人。一人は後輩の女子生徒、もう一人は先生。夕方になっちゃったから、俺の家に行こうって話になって、で帰りにこの人に会った。」
「私も何人か連れててね。人数も人数だったから一番広そうなカグラの家でまとまることになったの。こいつの家すごいのよ」
「あー…関係ない話するとイツキさん怒るよ。ーその道中、俺は喰われた」